福岡高等裁判所 昭和55年(行コ)21号 判決 1983年3月30日
長崎市小曽根町五番一二号
亡藤林貞治訴訟承継人控訴人
藤林淑子
横浜市鶴見区東寺尾北台一六-一一
同
藤林豊明
同所
同
藤林英世
右三名訴訟代理人弁護士
廣瀬哲夫
長崎市魚の町六番一六号
被控訴人
長崎税務署長 江崎博幸
右指定代理人
辻井治
同
手島奉昭
同
中村喜一郎
同
武藤亀夫
同
公文勝武
同
田中秀昭
右当事者間の所得税更正処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人が亡藤林貞治に対し昭和四七年一〇月二八日付でなした亡藤林貞治の昭和四四年分所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課処分(ただし、国税不服審判所長の裁決により一部取消された後のもの)のうち、総所得金額一、〇五一万五、七三六円、納付すべき税額二五三万九、六〇〇円を超える更正処分及び過少申告加算税賦課処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示(ただし、原判決添付別表(一)<9>の「扶養控訴」を「扶養控除」と、別表(四)前文を「前表<6>の買換資産の取得価額一三五、四三七、一四二円の内容は次のとおりである。」と訂正する。)のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の主張)
(一) 本件第一物件について、原判決のいうように、取得価額が見積額より過少の場合には、税務署長は納税者から修正申告書の提出がなくても、納税者の不利益に更正決定ができるのに、逆の場合には、納税者の利益に更正決定ができないというのであれば、法の眼目である課税の一時繰延の趣旨は没却される。
亡藤林貞治は、昭和四四年分所得税の確定申告に際し、法三八条の六の規定の適用を受けるため、買換資産の取得価額見積承認申請書を提出したが、買換見込物件が本件第一物件のほか三物件に及んだところから、右各物件の現実の取得価額の計算に混同錯誤を来たし、本訴提起にいたるまで、本件第一物件の取得価額の計算の誤りに気づかなかった。しかし、右錯誤は客観的に明確であり、かつ、金額的にも多額であって重大であり、この是正を許さなければ、控訴人は著しい損害を蒙ることが必至であり、現段階では、本訴によるほか救済手段がない。
(二) 藤林貞治は、昭和五五年九月二一日死亡し、控訴人らがその相続をした。
(被控訴人の主張)
(一) 事業用資産の買換の特例の諸規定は、基本的には認めるべきでない事項を、政策上の目的から、特定の要件を充足したときに限り税負担軽減措置として認めたものであって、厳格に適用されるべきであり、買換資産の取得価額が申告に対して不足額を生じた場合の更正処分は厳格さを要求される。これに対し、過額を生じた場合は、本来基本的には認めるべきでない事項であるから、減額更正までする必要はないのである。控訴人らが主張するように、不足額を生じた場合も過額を生じた場合も更正しなければならないのであれば、国税通則法を適用すればよく、ことさら法三八条の七に不足額を生じた場合の規定だけを置く必要もないから、買換資産の取得価額については国税通則法四条により同法二四、二六条の適用はない。
(二) 控訴人ら主張の右(二)の事実は認める。
(新たな証拠)
控訴人らは、甲第二二ないし二七号証を提出し、当審証人北野弘久の証言を援用し、後記乙号各証の成立を認め、被控訴人は、乙第九号証、第一〇ないし一三号証の各一、二、第一四号証を提出し、右甲号各証の成立を認めた。
理由
当裁判所も、控訴人らの本訴請求を失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のように付加訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
(一) 原判決一七枚目裏七行目の次行に「そもそも、確定申告書に記載した買換資産の取得価額の是正につき前掲の特別規定を設けた所以は、右取得価額等の決定については最もその間の事情に通じている納税義務者の自主的申告に基づくものとし、その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限る建前とすることが租税債務を可及的速やかに確定せしむべき国家的要請に応ずるものであり、納税義務者に対しても過当な不利益を強いる虞れがないと認めたからにほかならない。したがって、右記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法に定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、法定の方法によらないで、記載内容の錯誤を主張することは許されないと解すべきである。
そして、本件第一物件について、控訴人ら主張の取得価額七、八〇六万四、九一〇円と被控訴人主張の取得価額七、三八七万五、〇〇〇円の差額の内訳が右物件の登録税二五九万九、八〇〇円、右にかかる手数料三万二〇〇円、不動産取得税一五五万九、九一〇円であること及び亡藤林貞治が審査請求の段階においても本件第一物件の取得価額を七、三八七万五、〇〇〇円であると自認していたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第七号証及び甲第九号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件第一物件の登録税の納付義務は昭和四六年三月一一日に、右手数料の支払義務は同日以降に、不動産取得税の納付義務は同日以降同年七月三一日までの間にそれぞれ発生したことが認められる。右各費用は、昭和四六年中の事業経費として処理することができるものであり、仮に不動産取得価額を構成するものであると解するとしても、本件全証拠によっても、その錯誤の明白重大性及び前示特段の事情の存在を認めることができない。」と加える。
(二) 原判決二一枚目裏一二行目の「以上の認定によれば」の次に「実質的にも本件第二の(一)物件は亡藤林貞治が東望開発から買い受けたものではなく、」を加える。
よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訟訴法九五条、八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢藤直哉 裁判官 諸江田鶴雄 裁判官 日高千之)